アナリストの視点

原油急騰時の銘柄選び!!

2020/1/9
投資情報部 長谷川 稔

明けましておめでとうございます。当レポートは、一般投資家の皆さんにも、アナリストの分析手法の基本知識や考え方、さらにはノウハウを身につけていただく一助になればとの思いで執筆しています。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

これまでは財務分析のキーワードをテーマに、アナリストの分析手法やその裏側に隠れている意味などについて解説してきました。今回は、号外版として「原油価格上昇時の銘柄選び」をテーマにしました。年初に発生した中東情勢の緊迫化を背景に、原油相場や金市況が動意を見せています。今後の状況次第では、さらに上昇する可能性もあるのではないでしょうか。その際にどのような銘柄選択をすべきなのかをアナリスト的見地からお伝えしたいと思います。

図1 原油と金市況

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。

今回のポイント

●.原油価格上昇でメリットを受けるセクター、ダメージを受けるセクターは!?

それでは、実際に原油価格が上昇するとした場合、どのようなセクターが恩恵を受けるのでしょうか?また逆にデメリットを受けるセクターはどこでしょうか。まずは、株価パフォーマンスを検証することから始めたいと思います。過去5年間の東証の業種別株価指数と原油価格の相関性を調べてみました。原油価格以外にも株価を左右する要因はたくさんありますから、絶対とは言えませんが、まずはイメージをつかむことが大事です。

その結果が表1となりました。原油価格と株価の相関が高いトップ5業種と低いワースト5業種およびTOPIXを抜き出して掲載してみました。最も相関の高い(原油価格との連動性が高い)のは(1)鉱業、(2)石油・石炭製品、(3)卸売業となりました。(1)、(2)についてはイメージ通りですが、(3)に卸売業が来ているのが意外です。これは資源分野に強い総合商社が分類されているためだと思われます。

逆にワーストは、(1)空運業、(2)陸運業、(3)電気・ガス業の順になりました。これはほぼイメージ通りではないでしょうか。

これらのイメージを基に個別企業について、具体的な金額を含めてメリット、デメリットを検討してみたいと思います。

まずはメリット組ですが、何といっても、原油を生産している企業が挙げられます。その中でも筆頭は国際石油開発帝石(1605)です。世界各地で原油及び天然ガスの採掘を行っており、生産量は原油換算で42万バレル/日に達します。このため原油価格が年間で1ドル/バレル上昇すれば、年間の純利益は40億円以上増加する計算となります。総合商社も三井物産(8031)、三菱商事(8058)などが世界各国に原油、天然ガスの権益を数多く所有しており、利益の原油価格感応度は三井物産が31億円、三菱商事が25億円の計算になっています。

これ以外では石油精製会社も原油開発を手掛けており、同様に原油価格が年間で1ドル/バレル上昇すれば、出光興産(5019)が10億円、JXTGホールディングス(5020)が8億円、コスモエネルギーホールディングス(5021)が9憶円の増益要因となります。これに加えて石油精製会社の場合、製品価格が原油価格にスライドしてタイムラグがほとんどなく上昇するのに対し、安値の原油在庫を持っているため、在庫差益的な利益が大きく計上されます。その金額は年間で、出光興産が50億円、JXTGホールディングスが80億円、コスモエネルギーホールディングスが20億円となります。

原油価格の上昇が継続した場合、中期的にはプラント建設会社が石油開発企業の設備投資増加による受注増加の恩恵を受ける可能性があります。ただし、この場合、原油価格の上昇が長期化することが前提となる点に注意を要します。

これ以外では、非鉄金属企業が間接的にメリットを受けることが多いと思われます。これは、非鉄精錬工程で石油製品が使われますが、原油価格上昇でインフレマインドが高まり非鉄市況も波及して上昇することが多いためです。そうした意味では、日本最大の産金会社である住友金属鉱山(5713)も注目されるのではないでしょうか。

逆にデメリットを受ける業態としては、空運や陸運、海運などの運送業があげられます。業界の競合が激しく、燃料油価格の上昇をすぐには転嫁できないためです。ちなみに日本航空(9201)、ANAホールディングス(9202)の場合、原油価格が1ドル上昇した場合、おのおの年間で27億円、33億円の減益要因となるとみられます。同様に海運では日本郵船(9101)の場合で14億円程度、商船三井(9104)の場合で19億円程度の減益要因となると推定されます。陸運の場合定量的な開示がないためデメリット額は不明ですが、荷主は容易には値上げを認めるケースが少なく、デメリットを受けます。

また、エネルギ-を大量に消費する電力・ガスについては、株価的にはデメリット組に入っているようですが、料金体系が燃料油・ガスの価格変動をほぼ完全に転嫁できる仕組みのため、業績にタイムラグは発生しますが、累計で見た業績にさほど大きな影響はないと思われます。

製造業においてはガラス・土石、パルプ・紙、化学などのエネルギー多消費型産業が、原油価格上昇のデメリットを受けます。需要家への価格交渉が重要になりますが、なかなかコストアップ分を転嫁できないのが現状です。ただし、これらの産業では、エネルギー源を石油から相対的に安価な石炭に転換しているところが多く、デメリットは昔に比べて相対的に小さくなっています。もっとも石油価格の上昇が長期化すれば石炭価格の上昇にもつながりやすいので注意が必要です。

鉄鋼では、高炉メーカーは原料に使うコークス炭のエネルギーを使えるため、一般的にさほど大きな影響を受けませんが、特殊鋼を含む電炉メーカーでは電力代金の上昇がコストアップに直結するためデメリットを受けると考えられるので要注意です。

表1 原油価格と相関の高い業種、低い業種

  業種 相関係数
メリット 鉱業 0.503
石油・石炭製品 0.385
卸売業 0.324
非鉄金属 0.302
鉄鋼 0.282
  TOPIX 0.241
デメリット 食料品 0.130
ゴム製品 0.129
電気・ガス業 0.127
陸運業 0.061
空運業 -0.039

※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。相関係数を計算する対象期間は2014年末から2019年末までの5年間としました。

表2 主な原油高メリット株、デメリット株をピックアップ

取引 チャート ポート
フォリオ
コード 銘柄名 株価(円)
1月8日
原油1ドル上昇による
メリット(デメリット)
<メリット組>
1605 1605 1605 1605 国際石油開発帝石 1,187 9ヵ月で38億円*
1662 1662 1662 1662 石油資源開発 3,130 4.2億円*(ガスを除く)
5020 5020 5020 5020 JXTGホールディングス 517.8 8億円(在庫評価で80億円)
5019 5019 5019 5019 出光興産 3,055 10億円(在庫評価で50億円)
5021 5021 5021 5021 コスモエネルギーホールディングス 2,462 9億円(在庫評価で20億円)
8031 8031 8031 8031 三井物産 1,949 31億円*
8058 8058 8058 8058 三菱商事 2,873 25億円*
8002 8002 8002 8002 丸紅 805.1 4億円*
6366 6366 6366 6366 千代田化工建設 276 間接メリット
1963 1963 1963 1963 日揮ホールディングス 1,737 間接メリット
6269 6269 6269 6269 三井海洋開発 2,692 間接メリット
<デメリット組>
9201 9201 9201 9201 日本航空 3,389 27億円
9202 9202 9202 9202 ANAホールディングス 3,551 33億円
9101 9101 9101 9101 日本郵船 1,872 約14億円
9104 9104 9104 9104 商船三井 2,791 約19億円
9107 9107 9107 9107 川崎汽船 1,665 約5億円

※各社公表資料等からSBI証券が作成。あくまでも参考数値で、必ずしも計算通りに業績が動くとは限りません。金額に*がついているものは純利益、ついていないものは経常利益への影響額。

★.アナリスト今昔物語;アナリストが必要となる時は?

この欄では筆者がアナリストとして活動してきたうえで、業界の昔話や裏話、面白かった経験などを綴ってみることにしています。

今回のテーマは「アナリストが必要となる時は?」です。長年アナリストをやってきた経験の中で、ファンドマネージャーがアナリストを最も必要とする局面は大きくは2つでした。1つは当然といえば当然ですが企業の決算発表に際してです。発表された決算の内容、新たな会社見通しの妥当性、今後の業績予想、決算説明会や取材などを経てのフィードバックなどです。

そしてもう1つは市場で想定されていなかった事象が発生した時です。事象には為替や今回のような原油価格の著しい変動など、業績予想の重要な前提条件の変化があげられます。また、個別企業ベースでは、工場の火災や事故、製品の不良発覚、不祥事の発覚などの緊急事態です。この場合は即座に判断を下さなければならないので、一番緊張する局面です。

したがって、外部からのアナリストの評価ポイントとしては、業績予想の正確さ、業績転換点の見極めなどはもちろんですが、緊急事態への対応能力も大きいように思います。このためアナリストには会社への太いコンタクト能力はもちろん、周辺調査能力も重要になります。

筆者の具体的な経験の中で一番記憶に残っているのは、強気推奨していたあるメーカー(原子力燃料を手掛けていた)が、工場で臨界事故を起こした時でした。事故自体が思いもよらないことだったうえ、原子力に係る問題でしたのでマスメディアにも大きく取り上げられました。株価はストップ安を含め暴落しました。筆者はもちろん青くなりましたが、監督官庁や自治体なども含め詳しく調べるにつれ、風評被害への補償や事業停止による損失は大きいものの自己資本を大きく毀損するものではなく、幸いにも土壌汚染には及ばないことが推定できたので、強気を維持しました。結果として株価は急回復し事なきを得たのですが、忘れられない出来事でした。

  • ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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