アナリストの視点

アナリストの視点~(12)波乱相場の先を見据えて~決算時は市場コンセンサスに注意?

2020/4/30
投資情報部 長谷川 稔

当レポートは、一般投資家の皆さんにも、アナリストの分析手法の基本知識や考え方、さらにはノウハウを身につけていただく一助になればとの思いで執筆しています。毎回一つのテーマに関して、分析手法やその裏側に隠れている大事な意味などについて解説していきたいと思います。当社の国内株のスクリーニング(銘柄条件検索)機能などを使って、実際にテーマにちなんだ銘柄のスクリーニングも併せて行ってみたいと思います。

第12回のテーマは、「市場コンセンサス」です。このテーマは第5回目の本稿でも取り上げたものですが、これから本格化する決算シーズンに備えるべく、もう一度取り上げてみることにしました。今週から2020年1~3月期の決算発表が本格化するタイミングなので、まさに「市場コンセンサス」が使われる局面とみられます。日経平均株価が、3/19(木)の直近の底値16,358円からほぼ半値戻しの水準まで回復する一方、景気・企業業績の急激な悪化が見込まれ、収益が会社予想や市場予想を下回る企業が支配的となり、多くの企業が業績予想の公表を見送る事態に陥ることが考えられます。

こうした環境下でも、決算発表で業績が予想を上回り、2021年3月期も増益基調になりそうな企業は、いつも以上に希少性が高くなり、場合によっては株価が大きく上昇するケースも出てきそうです。皆さまの投資のご参考になれば幸いです。

今回のポイント

1.市場コンセンサスは株価形成にとって極めて重要な指標

株式の世界で「市場コンセンサス」というときは、ほとんどがアナリストの企業収益予想、またはエコノミストの予想する経済統計の数字(GDP、雇用統計等)等を平均した数字を意味しています。今回は企業業績予想のコンセンサスに絞ってお伝えしたいと思います。

「市場コンセンサス」のポイントをA社という上場企業の例で説明してみます。A社がある日、第3四半期の決算を発表しました。第3四半期までの業績は好調で、A社は会社予想の年間経常利益予想を従来の100億円から120億円に上方修正しました。ところが株価は反応しないどころか、逆に下がってしまいました。これはいったいどうしてなのでしょうか?

ここで、A社の業績に関しては発表前からアナリストの間では、強気の予想が多く、アナリストの年間利益予想の平均値が130億円だったとします。つまり株式市場におけるA社の経常利益に対する「市場コンセンサス」が130億円だったため、会社側の上方修正値120億円はコンセンサス以下で、逆に失望した投資家や、これで当面の材料出尽くしと考えた投資家が売り手に回ったため株価は下落したと考えることができます。

投資家の皆さんは、ある企業の株価が割高か割安かを判断するときにPER(Price Earnings Ratio)を日常的に使用していると思います。PERが10倍だから割安、30倍だから割高といった類いの判断です。これを数式で表すと下記のようになります。

PER(株価収益率)=株価÷EPS(1株当たり利益)

これはプロの投資家(機関投資家など)でも全く変わりはありません。

ただし、多くの機関投資家は、将来の株価を予想する時には、上記の式を下記のように変形して使用します。

予想株価=予想EPS(1株当たり利益)×PER(株価収益率)

つまり株価が変動するのは、(1)EPSが増加する(減少する)、(2)PERが上昇する(低下する)、の2つの変数の変動によってもたらされると考えます。

したがって、(1)のEPSを予想する=業績予想、は当然のことですが、株価予想の際に極めて重要なファクターとなってきます。また、株価は既に近未来を織り込んでいるものと考えれば、半年から2年近い企業の業績予想(EPS)を織り込んでいると考えられます。その際の予想EPSが「市場コンセンサス」ということができます。業績予想は、実際やってみるとなかなか当たらないものですが、「市場コンセンサス」は複数のアナリストの業績予想の平均値として計算されているので、その分、業績予想としての信頼度も高いと考えられます。

次に、(2)PERが上昇する(低下する)のは、重要なポイントなので、別の機会を設けて詳しく説明したいと思います。今回はPERの変動は、概ね2つの要因に分けられることをまず理解してほしいと思います。その要因とは、(a)マーケット要因と、(b)企業の個別要因です。

(a)マーケット要因とは企業の収益状況とは関係のないもので、外部環境の変化などです。その中では金利が一番大きなファクターとなります。金利が上昇すれば確定利付きの債券で資金を運用した方が、リスクのある株式よりも相対的に優位になってくると考えられます。したがってこの場合、PERは低下(株価は下落)する傾向にあります。金利が低下すれば今度は逆にリスク覚悟でも資金は株式に向かいやすくなり、PERは上昇(株価は上昇)すると考えられます。

次に(b)企業の個別要因ですが、これは企業の利益成長率が変化する場合です。そもそも急成長が見込まれる企業に与えられるPERは高くなりやすく、そうでない企業のPERは低くなる傾向があります。ところが収益環境や企業戦略の巧拙などによって、従来想定されていた成長率が修正されることがあります。例をあげれば、当初年率30%ペースでの利益成長が期待されていた企業の株式がPER30倍で取引されていたと仮定します。ところがライバルの出現などで、期待成長率が10%に下方修正された場合、PERは例えば10倍に低下する可能性があります。

したがって極論すれば、アナリストは、(1)のEPS予想に関しての全てと、(2)のPERに関しての(b)企業の個別要因(≒利益成長率)の部分について、責任を有するということになります。そして、ファンドマネージャーは、(2)のPERに関しての(a)マーケット要因に関しての全てと、前述のアナリストが出したEPSや利益成長率の妥当性を吟味するのが仕事になります。ただし、市場コンセンサスには、注意を要するポイントや、よりうまく活用するためのポイントが何点かあります。以下、箇条書きにしてみました。

・コンセンサス予想形成のアナリストの人数が少ないものは、数字の信憑性が低いので使用しない方がよい(一般的に最低3人は欲しい)と思います。

・会社予想と市場コンセンサスのギャップが大きい銘柄に投資チャンスが潜んでいると考えられます。

・コンセンサス予想の時系列推移のトレンド(上昇トレンドか下降トレンドか)も重要とみられます。

・市況産業の場合は、その企業の主力製品の市況との比較が参考になると考えられます。

・新興市場や時価総額の小さい銘柄は、アナリストがフォローしていないケースが多く、コンセンサスが存在しないケースが多いため、投資家が参考にする業績予想は会社予想がベースとなるケースが多いと考えられます。

2.市場コンセンサスが上昇している銘柄をピックアップ!!

今回の「アナリストの視点」では、現在のような景気悪化局面においても、足元の業績が拡大基調を示し、続く2021年3月期も増益が期待できそうな銘柄候補をピックアップしてみました。スクリーニング条件は以下の通りです。

(1)時価総額1,000億円以上の銘柄であること。
(2)これから決算発表を予定している3月決算銘柄であること。
(3)広義の金融(銀行、証券・商品先物、保険、その他金融)以外の業種に属す銘柄であること。
(4)業績予想を公表しているアナリストが3人以上である銘柄であること。
(5)2020年3月期の予想経常利益(市場コンセンサス)が過去3ヵ月以内に、10%以上増額された銘柄であること。
(6)2021年3月期の予想営業利益(市場コンセンサス)が増益予想(黒字転換を含む・増益率ゼロも含む)となっている銘柄であること。

(1)~(6)の条件をすべて満たした銘柄について、(6)に掲げた2020年3月期予想営業利益の増額率が大きい順に10銘柄ならべたものが表1となっています。これらの銘柄は、その希少性が評価され、場合によっては株価が大きく上昇するケースも出てきそうです。

なお、(1)~(5)までの条件は、当社のスクリーニング機能を使って抽出しましたが、(6)に関してはコンセンサス予想が1期先までしか使えないため、ブルームバーグのアナリストコンセンサス予想を参考にしました。

表1 【ご参考】市場コンセンサスが上昇しており、来期増益が期待できそうな銘柄をピックアップ!!

取引 チャート ポート
フォリオ
コード 銘柄名 株価(円)
4月28日
来期営業利益
増益率
予想
ブローカー数
次の四半期決算
発表予定日
6407 6407 6407 6407 CKD 1,780 83% 9 5/14
9684 9684 9684 9684 スクウェア・エニックスHLDG 4,625 55% 14 5/13
6460 6460 6460 6460 セガサミーHLDG 1,299 37% 9 5/13
3397 3397 3397 3397 トリドールHLDG 1,242 30% 3 5/25
7564 7564 7564 7564 ワークマン 6,640 17% 3 5/7
7780 7780 7780 7780 メニコン 4,855 14% 4 5/28
3880 3880 3880 3880 大王製紙 1,478 9% 4 5/15
8129 8129 8129 8129 東邦HLDG 2,240 1% 3 5/14
7459 7459 7459 7459 メディパルHLDG 2,069 0% 4 5/14
4502 4502 4502 4502 武田薬品工業 3,956 黒字転換 13 5/13

※当社WEBサイトの「スクリーニング(銘柄条件検索)」、ブルームバーグ等よりSBI証券が作成。なお個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

★.【アナリスト今昔物語】

筆者より;都合により、当コラムをしばらくの間休止させていただきます。

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